小夜鳴き鳥

作:斎 麗(いつき うるは)



月夜に浮かぶ小夜鳴き鳥。
曇りでも雨でも鳴き続ける刹那。
それは悲しいほどに「孤独」に似ていた・・・・・・。



小さな頃は孤独を恐れていた。
いつか本当に1人になってしまう気がしたから。
今、孤独よりも、彼が去ってしまうときの「寂しさ」の方が何倍もつらい。
それは自分が禁忌の恋を犯してしまったから。
許されぬ想い。
それでも、彼を愛しいと思う。
左之さえいればなにもいらない。

あなたは自分を、こんな風になってしまった自分を受け止めてくれますか・・・・・・?



ある春の日。左之助と剣心は河原を散歩していた。
「綺麗な鳴き声だな・・・・・・。」
「え?」
左之助のイキナリの言葉に少し驚く。
「小夜鳴き鳥だよ。いつ果てるとも知らず、いつ敵に襲われるとも分からず、それでも恋人に愛をうち明ける。切ねぇよな。」
まるで自分が傷ついているかのような目。
「そうでござろうか・・・・・・。拙者はそうは思わぬよ。」
剣心は静かに言った。
「声だけで襲われるとは限らぬ。それに、恋人に愛を伝えて死ぬのも恋人を守って死ねるのも、自分にとっては幸せなのではないか?」
「なんでだ?」
その言葉に、剣心は続ける。
「守ることで一番大切な人が助かるのであれば自分は本望だ。そう思う相手に巡り会えれば、命などいらないくらいにその恋人を大切に思うのでござるよ。」
川辺の静かなせせらぎとほんのわずかな小夜鳴き鳥の声。それは、悲しいほどに切なく、悲しいほど自分に似ている気がして・・・・・・。
「拙者もそう思うことがある。この者のためならどうなってもかまわぬ。この者のためなら命を捨てよう・・・・・・と。」
「へぇ、お前にもいるのか、大切な人って言うのは。」
左之助は意外そうに言う。
「意外でござるか?拙者にも大切な人くらいはいる。最も、そのものとは結ばれてはならぬ運命だがな。左之には、そんな人はいないのか?」
いるはずがない・・・・・・そう思っていた。
「・・・・・・いるぜ。」
その言葉に一瞬言葉を失う。
「いる・・・・・・のか?」
「なんだよ、そんなに驚いたか?」
へヘッと笑いながら左之助は言う。
「そいつさ・・・・・・。1人でいるときに、すげぇ悲しそうな顔をするんだ。悲しい瞳で遠くを見つめて。泣き出しそうなくらいに苦しそうな表情で。いつもその顔を見るたびにこっちまで苦しくなってきやがる。そいつとの距離は遠いけど、本当に心から好きなんだ。小夜鳴き鳥は恋人に想いを伝えるいとまも出来るかも知れねぇけど、おれにはそんないとまもなにもありゃしねえ。それに、お前と同じように、俺も結ばれちゃならねぇんだ。そいつとは絶対。」
胸が苦しい。ズキズキする・・・。
「そう・・・・・・でござるか。」
不自然に思われないように必死に頑張って表情を作った。
「で、誰なのでござるか?その愛しい者とは。」
それが自分の知らない者であって欲しい。そう願った。
「・・・・・・おめぇも知ってる奴だ。」
少し照れながらそう言う。
「それを教えて欲しいのだ。」
剣心は言った。自分の知らない者であるようにと必死に願った。
けれど現実は、剣心の願いなど聞き入れず、まるで剣心の不幸をあざ笑うかのような答えを持っていた。
「・・・・・・蒼紫。」
一瞬目の前が真っ暗になった。
「蒼・・・・・・紫?」
「あぁ。四乃森蒼紫。俺らさ、前あいつらと戦ったじゃんかよ。」
「あぁ。」
「なんかさ、すげぇ悲しそうな瞳で・・・・・・。気が付いたらあいつしか考えられなく
なってた。おかしいよな、男が男を好きになるなんて。でも・・・・・・。」
真剣な眼差しで遠くを見つめる左之助。
「好きなんだ。心から。」
「そうか・・・・・・。」
苦しかった。こんな残酷な結果があるだろうか。
一番愛しい人はどうあがいても手に入らない。それは自分の敵の男に恋をしているから。
「で、剣心の想い人は誰だよ。俺も教えたんだ。教えろよ。」
少し悪戯っぽく微笑む。でも彼が本当にこの笑顔を見せたいのは自分ではない。
「・・・・・・だ。」
「え?誰だって?」
「お前だ、左之助。」
二人の間に一瞬沈黙が走った。
「何言って・・・・・・冗談やめろよ。」
「冗談ではござらぬ。拙者の想い人は左之助、お主なのでござるよ。」
「嘘だろ・・・・・・。」
左之助は信じられないという顔をしている。
本当は言う気はなかった。でも・・・・・・。
黙っていられなくて、左之助に少しでもこっちを見ていて欲しくて・・・・・・。
「悪ィ・・・・・・。俺、さっきも言ったけど・・・・・・。」
「分かっている。お前の気持ちなど。忘れてくれ。このことは。では。」
剣心はそう言って一方的に立ち去った。けれど左之助は引き留めようともしてくれなかった。
小夜鳴き鳥は泣き続ける。その声はあまりに綺麗すぎて、同時に切なすぎて。けれど、今は小夜鳴き鳥をうらやましいと思う。
自分もあんな綺麗な声で鳴けば、彼は振り向いてくれるだろうか。
今は、何かを思い、今は泣き続けるしかない。

次にあったとき、あなたは自分をまた友達と思ってくれますか?

心の中で問うたその答えは、なんの答えもなく風の中に消えた。




     了

  03.03.25 up





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m(_ _)m

こんな物を見ていただき光栄です。斎麗って言います。まだまだひよっこですが、左之剣大好きです。
これは左之剣初小説なのですが左之剣って言うか、もう剣心の片思いですね。(汗)
次回は幸せな左之剣を書きたいのですが、良い案が浮かばず苦労・・・・・・。それでも、皆様にこんな物を見ていただき嬉しい限りですv
いつもは中学生(!)として“真面目な奴”を演じている私ですが、中身は同人だらけ・・・・・・。勉強中だろうが休み時間だろうが部活中だろうが考えるのは同人。もちろん左之剣も入ってますv
こんな風にホームページに載せてもらうことは、本当にたま〜にあるのですが、やはり左之剣を見ていただくのは初めてなので、ドキドキしています。皆様が少しでも感想を持っていただければ嬉しいです。
方便などを遣ってしまい、皆様には見にくい物でしょうが、そこはご了承下さい。これからなおしたいと思います。
こんな奴の小説を見ていただきありがとうございました。心からお礼申し上げます。

                                      

斎 麗(いつき うるは)


 私の大事なメル友さん、麗殿が初めて書かれた左之剣でござります(*^^*)♪
 私が無理を言って、こちらにアップさせて頂きましてござりまする(////)
 まだまだ表現的には荒削りな感ではござりまするが、ストレートな言葉の数々が何とも、初々しさを漂わせておりまする♪
 剣心・・・フられてしまったでござるね(笑) 左之助も・・・なるほど、奴の心は蒼紫に染まっていたのでござるか〜!
 この思わぬ展開に、思わずのけぞってしまった私でござりました(笑)♪
 物語を書くことが大好きな麗殿、どうかこの作をステップに、どんどんご自分の世界を広げていって下さりませ!
 今回は左之剣デビュー作を頂きまして、まことにありがとうでござりました〜!

m(_ _)m