作:何奴 仁
“今一度、京都へ行ってくれ”
一週間前、大久保郷にそう言われた。そして、返事をする日がきた。
− 拙者が行くことで人々を救えるのならば・・・
すでに心は決まっていたが、皆に話すことはできなかった。
洗濯をしながら思い出いだしていた。
忘れることのできぬ、あの場面・・・
そこを見た瞬間 時が止まった。
− ・・・・!
「左之!!」
道場で倒れていた左之助。
息が止まりそうになった。
感情は怒りの一色。
手当がすんでも、左之助の意識は戻らなかった。
心配・・・それを通り越して恐怖に襲われた。
二度と目を覚まさないのではないだろうか
そのときの剣心に、左之助をみることはできなかった。
左之助の血の気のない顔、ぐったりとした体。
想像するだけでふるえが止まらなくなる。
外は闇。
ロウソクの明かりに照らされ橙色の顔。その光に反射する汗。
「目にうつる人々・・・か。」
− 血だらけの仲間をみれば誰でもこんな気持ちになるのだろうか。
剣心は、不思議な気持ちになっていた。これがなんという気持ちなのか、分からないのだけれど。
心の臓が強く脈打ったのは、あの左之助を見た時だけではなかった。
左之助を思い出すたびに強く脈打つこの胸。
− 斉藤・・・お主が言ったように、拙者は目にうつる人々を守ることはできていなかった・・・
思わず、手が止まる。
− 認めたくないものでござるな。
剣心はちらりと部屋のほうに目をやる。
そこには薫がいた。さっきから剣心の方を見つめていた。
分かっていたが、あえて気づかないふりをした。
− 何故皆、拙者を京都に行かせまいとするのでござろうか・・・
そう考えれば、理由は分からない。
− 暗殺を拒むのは分かる・・・が、それ以外は・・・
「剣心・・」
ふいに呼ばれ、振り向くとそこには・・・
「左之・・・」
剣心の胸が脈打つ。
包帯を巻いた傷から血がにじみ出ている。その完全に直りきっていない傷を見たから、というのもあるが・・・他の何かが・・・
「大久保の話にのる気じゃねぇだろうな・・・」
− すまないが、そのつもりでござるよ。
「やめとけ、あんなうさんくせぇ話。」
「左之は心底、明治政府をけぎらいしているでござるな。」
どうしてだろうか・・・皆を・・・左之を裏切ろうとしているのに、左之の声が心地よいなんて・・・
すまぬ、左之。
剣心はこの気持ちをなんというか分かっていない。
それが“恋”だと分かるのは、まだまだ先の話である。
− 了 −
04.01.02 up
背景画像提供:「Studio Blue Moon」さま http://www.blue-moon.jp/index.html
今回じれったい物を書いてしまったので、もし次があればもっとラヴラヴな左之剣に したいと思っております故、今回はこれで勘弁してくださいね(^^;)
何奴 仁(どいつ じん)
仁殿〜(*^^*)!
素敵な小説を寄せて下さりまして、まことにありがとうでござりました!
ん〜、何だかもどかしいでござるね(笑)!? 「剣心、早く気づけ〜!!」てなもんでござる(笑)
しかし、そのじれったさがまた良い味わいとなっておりまする、たまりませんですな〜(//▽//)♪
個人的にツボだったのは、薫が見ているのをわかっていながら気づかぬフリをしている、あの場面(笑)
うんうん、剣心は左之助一筋なのでござる、そうこなくっちゃ〜♪(オイオイ!・笑)
「もし次が」とおっしゃらず、また拝読させて下さりませね(^▽^)!
そう、その「ラブラブな左之剣」を(笑)!
今回は本当にありがとうでござりました〜(*^^*)!
m(_ _)m