[  1      ]

 泡の夢 



 骨をも震撼させる右脇の重み・・・
 それはかつて、確かに味わったもの。
 この世のすべてを粉砕するかのような、凄まじいまでの破壊力・・・
 鋭き一撃は、万の兵数に相当するかのような。
 おぞましくも圧倒的な斬撃が、十年前と寸分違わず存在していた。

   − 詰めが甘い!

 その声とともに、

 ガシュッ

 身に刻まれた豪なる一打。
 蹴飛ばされ、木の葉の如く小さな身体、ヒュウと舞う。
 と・・・

 ・・・もぞり。

 身体の奥、何かが寝返りを打った。
 動いてはいけないものが、
 存在してはならぬものが、
 確実に身の内側、身悶えたのがわかった。
 これは・・・
 心の深淵、何かが悲鳴を上げた。

   − 土方歳三の考案した「平刺突」に死角はない。
     まして俺の「牙突」なら、尚更だ。

 腰を据え、左腕を大きく引きながらも右腕、突き出すように押し出された特有の構え、「牙突」・・・。刃に彩りを添えるかのような双眸は、爛たるも底冷えする光が煌めいている。
 喉笛に狙いを澄まし、切っ先、右の指先がふぅ・・・と愛おしむように添えられ、

 ダンッ

 床を蹴り上げ弾丸の如く長身、懐へ飛び込んでくる。

 素早く反応して愛刀、鞘走りをさせるもたちどころ、背中に夥しい痛みが走った。
 壁の、冷たい感触。
 思わず左手、右脇へ寄せた。
 ・・・どろり。
 生温かなものに触れて神経、たちまち晴れやかに冴え渡った。

   − 無駄なあがきを!

 声が遠い・・・何を言っているのか、わからぬ。
 でも・・・
 ・・・覚えている・・・この感覚を。
 斬られた時の痛み、肌を伝う血の感触、臭い・・・
 ・・・そして、斬撃の衝撃。
 覚えている・・・覚えているとも・・・この感覚、この衝撃・・・
 ・・・忘れるはずが・・・

 のそり、立ち上がった。

 「ハァ、ハァ、ハァ」

 息が荒い。
 呼吸が整わぬ。
 肩で息をせねばならぬほどに、血が高騰して鼓動が速い。

 まだだ・・・まだ、何かが足らぬ・・・
 何が・・・?
 わからない・・・わからない、が・・・

 つと、何かが視界を遮った。

 何だ、誰だ・・・女・・・?
 いや・・・誰でもいい、今は・・・そんなことは、どうでもいい。
 今は・・・
 ・・・今は、
 やらねば、ならぬ!
 俺は・・・!

 「いくぞ」

 初めて、
 生気が宿った声を出せた気がした。
 初めて、
 剣を握っているのだと実感した気がした。
 そう・・・そうとも、今は闘っているのだ・・・
 ・・・誰と?
 誰・・・
 ・・・言わずと知れた、新撰組三番隊組長・斎藤一!

 俺達の、敵だ!

 途端、身体から重みが抜けた。
 痛みなど忘れてしまったかのように・・・

 宙に、浮いた。

 「ぬ・・・おおぉぉ!」

 耳朶を貫いた斎藤の咆吼。
 画然、
 顎を砕かれる衝撃・・・肉体が重みを思い出して後方へ飛ぶ。

 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 息が荒い、息が乱れる、息が・・・
 けれど・・・けれど・・・

 ・・・思い出した。
 思い出せた。
 足りなかったものが。
 欠けていたものが、忘れていたものが・・・
 思い出せたよ、斎藤・・・。

 「正真正銘の牙突、手加減なしだ」

 だから何だ・・・? 手加減なしだから、何だというんだ。
 来るのならば来るがいい。
 貴様の牙突など、もう通用しない。

 疾風となった牙突が迫り来る、刃が右頬をギュンと掠める。
 刹那、右踵を軸に身体を反転、
 愛刀を抜いた、

 「おおおお!」

 腹の底から怒号を迸らせたその先に、愛刀がめり込んだ後頭部。
 勢い余って長身痩躯、爽快に宙を飛んで壁に揉まれた。
 土壁が崩れ、一瞬の静寂・・・
 ・・・その、奥から。

 「フ・・・フフ・・・本当は、力量を調べろとだけ言われていたが、気が変わった・・・」

 ゆらりと姿を見せたその額、夥しく血潮を噴かせて滴り落ち・・・
 眼光、妖しくも鬼気と光を放った。

 「もう、殺す」
 「寝惚けるな」

 間を置かず、低く冷酷な声音が空を斬る。

 「『もう殺す』のは、俺のほうだ」

 口腔に広がる鉄のような味わい。それをどこか喜悦の思いで飲み下し・・・

 「おおおお!」

 互いの魂、同じ鬨の声を上げた。

 ・・・それからは。

 剣と剣の、あるいは拳との激戦・・・
 わずかな時の流れが数十倍の長さに感じられるかのような、濃厚な時間。
 身体に走る痛みなど、
 繰り出す斬撃の凄まじさなど、
 もはや意味を成さぬ。
 血が肉が、魂の底からざわめいた、あらゆる感覚など忘れ去り。
 偏に刃の動きを追い、
 偏に相手の双眸を睨み据え、
 あらゆる攻撃にあらゆる方法で反撃していく。

 久しぶりの味わいだった。
 久しぶりの猛々しさだった。
 この、ギリギリでの命のやり取り・・・

 ・・・たまらない。

 瞳、喜々として染まる。

 だが・・・血の饗宴には必ず終止符が打たれる。
 ・・・「死」という形で。

 「そろそろ・・・終わりにするか」

 ゴキッ・・・と拳を鳴らし、壬生の狼はにやりと笑う。

 「・・・そうだな」

 チャッ・・・と鞘を握り、
 スィ、と腰を落としざま鐺、
 ふぅと狙いを定めた、

 「おおお!」

 ゴッ

 二人の間合いは急速に縮まり、

 「・・・!」

 ぱち、

 目が、覚めた。

 「・・・ハ! はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 短く荒く、荒く短く、呼吸を繰り返す。
 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
 呼吸を繰り返しながら、眼前に広がった光景に突如、心は竦んだ。
 居場所は・・・自分の部屋であることがかろうじて、認識することができた。
 そこまでは、いい。
 問題なのは・・・

 「・・・目ェ、覚めたかよ」

 小さくも低い声が、耳朶の奥へと痛く響いた。
 身体が硬直し、身じろぎ一つできぬ。

 「左、左之・・・」

 驚きが隠せなかった。
 彼が目の前にいたからではない。
 その彼に向かって今、自分は愛刀を・・・逆刃刀を抜き放って切っ先、喉笛に狙いを定めていたのだ。
 片膝を立ててピタリと。寸分の狂いもなく、定めて・・・
 驚愕に瞳を見開いたままの彼・・・剣心に、切っ先を生々しく感じながらも左之助、悠然と口を開く。
 「朝だぜ、剣心」
 「あ・・・あぁ・・・」
 「・・・目が覚めたンなら、そいつを降ろせよ」
 言われ、剣心は慌てて逆刃刀を鞘へと戻した。
 それでもまだ、表情が強張っている。
 「大丈夫か」
 「・・・あぁ・・・」
 「眠れたのか」
 「・・・あぁ・・・」
 「嘘をつくな」
 やにわに頤を掴まれ、剣心は面差しをあげられた。瞳に緊張が走る。
 「・・・隈ができてンぜ。それに・・・」
 左之助の左手、乱暴に彼の袷を握るなりグイッ、手前へと引っ張り上げた。漆黒の瞳、露わになった懐の奥へと突き刺さる。・・・薄暗くも青白い肌、そこには・・・
 「ひでェ寝汗だな、おい」
 「・・・!」
 抑揚のない声に指摘され、剣心は思わず身を震わせた。・・・言われてみれば、全身がじっとりと汗ばんでいる。夏でもないのに、玉のような雫がびっしりと。
 剣心、瞳をわずかに伏せた。
 そんな彼を、しばし沈黙の中で見据える左之助。その表情に一片の温もりも見えぬ。
 やがて・・・
 ・・・ス。
 力の漲っていた左手が、袷から緩やかに離れた。
 離れ、膝を起たせ、踵を返す。
 「嬢ちゃんの不味い朝飯が待ってる、早く来いよ」
 「あ・・・あぁ・・・」
 「それから・・・」
 障子まで歩み寄り格子に手をかけ。
 「・・・顔、洗ってこいよ」
 彼の声を、剣心は黙って飲み込んだ。視界の中、障子を開いて消えゆく左之助の影のみを追い・・・結局、精悍な姿を瞳に収めることはなかった。
 「・・・顔、か・・・」
 ぱちんと己が顔、手のひらで覆って、ぼそり。
 「・・・それほどまでに酷い顔をしているのか、拙者は・・・」
 深々と吐いたため息、澱んで重く畳を這う。
 左之助が、念を押すように言い置いた意味を剣心、悟っていた。
 昨日の今日である、一番不安に思っているのはあの二人であるに違いない。不安であるのは左之助も同様なのだろうが、その点、彼はやはり「男」であった。心得ているものがあると見え、今ばかりは頼もしく思えてしまうほどに落ち着き払っている。
 いや・・・そう思えるのは、信頼してくれているからかもしれない・・・。
 ・・・自分が京都へは行かないのだ、と。
 そう、たとえそのように信じていたとしても、不安を隠しきれないのが薫と弥彦だ。弥彦も顔に出すような少年ではないがとかく、薫はそうもいくまい。
 そんな彼等を目の前に、渦の中心たる自分がこのような姿をさらせば・・・。
 「・・・かたじけない、左之・・・」
 姿を消した男へ小さく礼を述べたその直後・・・
 こめかみから一筋の汗、つぅと落ちた。






 盥へ屈み込み、ざぶざぶざぶ・・・着物と水の調和をひたすら、刻み込んでいる。
 若葉薫る吹きゆく風、軽快な音は優美に流れ・・・
 空は青く鳥は飛び、眩い光は優しく暖かく・・・すべてを照らし、包み込む。
 温もりを全身に感じながら、赤毛を揺らして剣心は、たすきがけをした背中を空へ向けてざぶざぶざぶ・・・盥と着物、水の調和を溶け込ませている。
 薄く透けた白磁の肌、袖から・・・肘が剥き出しにされたそれが上下に動く様を、縁側から左之助、じっと熱い視線を注ぎ続けている。
 考えていることは、ただ一つ。
 が、その事柄が何なのか・・・と尋ねられれば、おそらくは答えに窮する。
 お題は一つであるのに、考えてしまうことが多すぎるのだ。
 縁側に腰掛けたまま、左之助は瞬きすることも忘れ、じ・・・と、剣心を見つめ続けている。
 この視線に、気づかぬ訳がない。
 だが剣心は、一向に彼のほうを振り向く気配がない。
 一辺倒に盥へ屈み込んだまま、
 ざぶざぶざぶ・・・
 営々と洗濯を続けている。

 何を考えてやがる、剣心。

 彼の丸く、小さな背中へ左之助は無言で語りかける。

 昨日の今日だ・・・いろいろと考えてやがんだろうな・・・。
 今朝だって、夢にうなされやがってよ・・・
 おめぇ、どうするんだ・・・行くのかよ、京都に?

 喉の奥まで出かかっているこの台詞を、左之助は吐き出せないでいる。
 もし、そのように尋ねて「行く」と言われたら・・・?
 その解答が恐ろしく思えていたりもした。
 けれど・・・

 ・・・こいつのことだ、おそらくは京都へ行くと返答するに違いねぇ。
 何だかんだ言っても、京都の人々を見捨てるようなことはできねぇだろう。
 たとえ・・・人斬りを捨てた今だって、その力が必要とされるなら、
 ・・・人々の役に立つかもしれないと思ったら、
 こいつのことだ、京都に行くに違いねェ・・・

 そんな生き方に、彼の強さに自分は惹かれた。
 だから否定はできない、止めることもできない。
 だが・・・

 ・・・ここから剣心がいなくなる・・・

 その現実を考えたとき、心のどこかが大きく震えるのがわかった。
 一体何が・・・震えるというのだろう。
 怯えているのか、悲しんでいるのか? それとも・・・

 自分の心が、見えない。

 「・・・剣心」

 左之助の視線を痛いほど感じながら、剣心は洗濯を続けている。
 そう・・・背中を貫くが如くの鋭さと熱っぽさでありながら、剣心の心は左之助へは傾いてはいなかった。

 ・・・あの時・・・。

 脳裏に描き出しているのは昨日の出来事、夢の反芻。
 十年ぶりの邂逅、そして対峙・・・
 幕末の、激動の頃と寸分違わぬ剣捌きがそこにあり、何より確実に・・・
 ・・・「抜刀斎」は、いた。
 自分にとって抜刀斎など、かつての自分であるという認識のみであった。
 それがどうだ、昨日のあれは。
 完全に自我を失い、壬生の狼に感化されるがままに剣を振るう姿はまさしく、「抜刀斎」。
 かつての自分の姿としてではない、未だ生々しくこの身体の奥底にて、「抜刀斎」は別の人格を宿してそこにいる。
 そうとも・・・「かつての姿」ではない、「もう一つの人格」だったのだ。
 さもなくばどうして・・・
 「・・・巻き込まれたのは拙者だけではないと・・・どうしてあの時、皆の名がすぐに出せなかった・・・」
 躊躇いもなく、忘れることもなく。否、忘れてはならぬ仲間達の名を言えてこそ「剣心」と名乗れるのではないか。
 それが、すっかり「抜刀斎」となり果ててしまっていた自分は、仲間達を忘れてしまっていて言えなかった・・・。
 これでは・・・
 「・・・今の拙者は、『剣心』とも『抜刀斎』ともいえぬ、半端者・・・」
 自分は剣心であると・・・「剣心」として生きてきた、なのに・・・

 足元が、崩れたような気がした。
 「十年」という名の時の流れが一瞬のうちに、流砂となって・・・。

 変わりに、現れたものは。
 新たな脈動を打ち始めた「抜刀斎」・・・。

 ・・・わかるのだ。
 こうして洗濯に没頭していながらも、心のどこかで抜刀斎が息づいていることを。
 おそらくは・・・何らかの拍子で飛び出してこようとする抜刀斎がいることを。
 自分は・・・昨夜の一戦ですっかり、かつての自分を、感覚を取り戻してしまっている・・・。
 このまま・・・

 「このまま、ここにいて良いのか、拙者は・・・?」

 限りなく危険なように思えた。
 神谷にいる人々が・・・仲間達が危険なように思えた。
 それを承知でここへとどまったはず。
 だが・・・もう、限界なのかもしれない。

 潮時か。

 自分の力を求めてくれる人々が、京都にいる・・・
 みすみす、見過ごすわけにはいかない。
 なおかつ、自分と同じ「人斬り」ともなれば・・・

 人斬りに勝てる者は、
 同じ闇を知る人斬りしかいない。

 拙者は、もう・・・ここには・・・

 胸の内、何やらキリリと痛みを覚えた。

 「・・・剣心」

 つと、背後の声に剣心、振り返った。
 いつのまにか、側にまで左之助が。
 彼の気配と視線は感じていたのに、どうして近距離に来ていたことに気づかなかったのか・・・
 考え事をしていたからだとすぐに思い至り、いつものように苦笑を滲ませながら立ちあがった。
 「どうした? 洗濯を手伝ってくれるのでござ・・・」
 「夕べも、言ったと思うがよ」
 語尾をさらって、左之助は低く言った。蒼い瞳を見透かすような眼差しで凝視しながら。剣心はつい、息を呑んだ。
 「俺ァ、おめぇが今更担ぎ出されることが腹立たしいんでェ。確かに、昔は大久保のおっさんのために働いていたかもしンねぇ、けどよ、だからといっておめェが尻拭いをする必要はねェだろが」
 「左之・・・」
 「むしろ、そんな危険なヤツを潰せねぇ明治政府なんざ、いっぺんブッ潰れちまえばいいんだ。今更剣心の力を借りようなんざ・・・虫が良すぎる、阿呆のするこった」
 剣心は何も言わない。苦痛を滲ませたまま静かに、左之助を見上げている。
 「話に乗るな、剣心」
 「・・・しかし、左之、」
 「しかしもヘチマもねェ!」
 ガシッと懐を掴み挙げ、左之助は語気を荒げた。
 「おめェのこった、理由はどうあれ京都を放っておくことなんざ、できはしないだろうよ。だがよぉく考えてみろよ、おめぇはもう抜刀斎じゃねぇ! 緋村剣心なんだよ!」
 「・・・・・・」
 「人斬り抜刀斎じゃねぇだろッ? あいつらが求めてンのは今のおめぇじゃねェ、昔のお前、緋村抜刀斎だ! 今のおめェは違う、流浪人の緋村剣心だろッ? あいつらの要求を飲み込む道理はねぇはずだ!」
 かなり強引であることは百も承知していた。けれども、己が本音を吐露せねばどうにも、収まりがつかなかったのだ。
 彼が京都に行くことは目に見えている・・・それが剣心らしくもあり、彼の行く道であるに違いない。
 だがしかし、明治政府たる大久保利通のやり口が、左之助にはどうしても気に入らなかった。今の剣心ではなく、抜刀斎を・・・当時の力を用いようとするその考えが。
 ・・・だから。

 そう・・・そうとも。俺は・・・俺は、剣心に京都へ行ってもらいたくはないんだ!
 大久保の言いなりになってもらいたくはないんだ!
 お前はもう、志士じゃねぇ・・・ただの剣客、流浪人なんだからよ!

 本当にそれだけか?

 心の奥底、強く叫ぶのはもう一人の自分。

 だが、左之助はその声に聞こえぬフリをした。

 「左之・・・」

 二の句が継げず、剣心はただただ、左之助を見上げているしか術はなかった。
 何をどのように、左之助に告げればよいというのだろうか。
 今の自分とて・・・明確な答えを得られていないというのに・・・

 自分は・・・京都に行きたい・・・行かねばならない。
 そう思っている。思っているが・・・
 ・・・正直、迷っている・・・
 何を迷う、迷う必要がある・・・?
 この力を役立たせるため、すぐにでも出立すればいい。それが自分の役割、生き方・・・。
 そう、わかっているのに、思うのに・・・
 どうしてまだ、ここにいるのだ?
 行かなければ・・・行かねばならぬのに・・・!

 ・・・左之助・・・
 お主に話せば・・・迷いの正体がわかるだろうか・・・

 「とにかくだな、剣心。俺は今回ばかりは反対だぜ。おめぇの生き様が人々を助けることにあっても、政府の言いなりになる必要はねェ! あいつらのしでかしたことだ、自分達で決着をつけりゃいいんだ。わかったな、剣心!」

 言いたいことをすべて吐き出して、左之助は背を向けた。背を向けるなり縁側へ戻り、ゴロリと横になる・・・
 剣心は、左之助の一挙手一投足を目で追いながら・・・瞳、切なさを滲ませた。

 「でも、左之・・・拙者とて、あの頃は・・・あちら側の人間であったのだ・・・だから、この一件は・・・」

 ぼそぼそと呟くように言った言葉は、緩やかな風の中へ掻き消された。
 若葉薫る、涼やかな風に・・・




[  1      ]