ゆるりと吹いた風に何かしらを覚えて、剣心は歩みを止めて空を見上げた。
先ほどまで眩しいばかりに晴れていた青空が、いつの間にか黒い雲が立ち込め始めている。これは・・・
「一雨来るかもしれぬなぁ」
ぼそりとこぼしたその声に、肩を並べて歩いていた長身の男も同様に、空を見上げた。
「お、本当だな。空が真っ黒だぜ」
左肩に大きな米俵を担いだ姿で、彼はそう言って剣心を見下ろす。
「急いだ方がいいかもしンねぇな」
「あぁ。少しばかり急ぐとしようか」
ニヤリと笑いを浮かべた彼・・・左之助に、剣心もまた笑みを浮かべて頷き返した。
二人そろって町へ繰り出したのは、偏に買い出しのためである。午後から男二匹が買い出しへ行く・・・本来ならば、婦女子が行うべきところを何ら、疑問にも思わずに出かけるのだ、お人好しにもほどがあるのかもしれない。
しかしながら今回ばかりは、ちょっとした理由があった。
「お主に一緒に来てもらって本当に助かった。拙者一人では、どうにもならぬところでござったよ」
やや足取りを速めながら剣心は、傍らの左之助へと声をかける。
「俺ァいつだって荷物持ちじゃねェか。ま、こんなでっけェもんを、おめェに持たせるわけにはいかねェからな。いや、持たせる前に持てねェか、その細腕じゃァよ」
担ぎ上げている米俵をポンポンと叩いて、左之助は唇に笑みをにじませた。
「大飯ぐらいのお主だ、せめてそれくらいは手伝わねば罰が当たるというものでござろう」
「おめェの作るモンだったら、手伝いはいくらでもしてやらァな。嬢ちゃんだけはご免被るけどな」
そう言って笑った左之助に、剣心は再び微笑み返した。
買い出しも無事に終了し、町を抜けての土手道。時折行き交う人々も、空模様に気付いて足早に去っていく。
「ところで! 今日の晩飯はなんでェ?」
やや駆け出しながら今夕のことを気にかけて、左之助は声を少しばかり張り上げた。
「さて、いかが致そうか? まだ何も考えておらぬよ」
左之助よりも幾分、前を駆けている剣心は、赤毛を背中で踊らせながら苦笑混じりに答えた。
「考えてねェのか。うまいもん、作れよな!」
「お主のうまいもんとはどんなものだ。希望があれば応えるが・・・」
ふと、剣心の脳裏に厨に残ってある食材がよぎった。たちまち顔が曇る。
「ム・・・すまん、どうやら応えられそうにない」
「て、コラ! 俺ァまだなンも言ってねェぞ!」
「ハハ、それもそうだな」
・・・と・・・
ぽつ。ぽぽ・・・
頬を打った雫に、左之助が空を見上げた。
「やべェ、降ってきやがった!」
「いかんな、今降られては」
「急ぐぞ、剣心!」
脚の動きが速くなった。
力強く土を蹴り上げながら、二人は全力で走り出す。
・・・もともと。
剣心の脚力は並はずれているし、左之助とて喧嘩や激闘で鍛え抜かれた身体だ、その脚力には目を見張るものがある。
・・・とはいえ。
所詮人間が、天に敵うわけがない。
ポツポツとした雫は瞬く間、ザザーっと滝の如く落ち始めたのだった。
「本降りになりゃぁがった!」
左之助の叫びを背後に聞きながら、剣心は四方へと目を走らせていた。
この雨では道場へ帰り着くまでに、米俵が濡れてしまうだろう。それではせっかく買った米がすべて無駄になってしまう。なんとかしなければ・・・。
踵が土を跳ね上げて、袴の裾を泥だらけにしていく。足袋などはとうの昔にずぶ濡れだ。
イカンな、このままでは・・・
にわかに焦りを覚えたときだ。
「剣心!」
と背後から大きな左之助の声。
「とりあえず一時避難だ! 道場までもたねェよ、米が!」
「どうするつもりでござるか!」
「どうもこうも、あそこへ逃げ込むんだよォ!」
雨に煙って視界が遮られる中、ザザッと左之助の足裏がなだらかな草の斜面を滑り降りた。土手を下ったその先には、小さな小屋が建っていた。
左之助の視力に感心しながら、剣心も後に続いた。
川原に建っているそれは、おそらくは漁師が使っているものなのだろうが、そんなことを気にしている余裕はない。
左之助は小屋の前までくると戸をバンッ、足で蹴破った。ついで、剣心が転がり込むようにして身を滑らせた。
剣心は直ちに戸を閉めると、大きく息を吐き出した。
「あぁ、やれやれ。ちょうど良いところにあったものだ」
ぽたぽたと前髪やら鼻先やらから雫を落としながら、剣心は左之助を見やった。
左之助は米俵をドスンと置くなり、ふぅっと息を吐く。黒髪を掻き上げた手のひらが、雨粒でべったり濡れた。
「左之、もう少し丁寧に戸を開けばよいものを」
「いいんだよ、どうせボロ屋なんだからよ」
「ボロ屋といえども、雨宿りにやっかいになるのでござる、感謝の気持ちがなくば駄目でござろう」
「あぁ、うるせェな。わかったよ」
米俵をポンポンと叩いて、左之助は濡れた額を手の甲で拭った。
「とりあえずはそんなに、濡れてねェみてェだな。水を吸っちまったら、嬢ちゃんに怒られるところだったぜ」
俵を小屋の隅のほうへ押しやると、左之助は半纏を脱ぐなりまるで雑巾のようにねじった。
ばたばたばたっ。夥しい水音がして、足元の土が跳ねる。
「うわ、半纏のほうがずぶ濡れだぜ。布一枚だからな、藁よりも軟弱みてェだ」
「ハハ、そのようでござるな」
剣心もまた、懐から取り出した手ぬぐいで着物を拭いていたのだが、手ぬぐいそのものが濡れてしまっているらしく、さほどの効力を発揮していない。それを見て、左之助は笑いをこぼした。
「馬鹿野郎、それじゃ埒が明かねェだろ、おめェも脱いだほうが早いぜ」
「そうかもしれぬなぁ。襦袢まで濡れてしまっているでござるからなぁ。見ろ、逆刃刀など柄がふやけてしまった」
腰から外した相棒は、鮫肌が水分を吸い込んでしまってゆるゆるにたわんでいた。手ぬぐいで柄を拭きながら、剣心は苦笑する。
「袂で庇ったが、この雨には敵わなかったようだ。もし今、敵襲を受けたらなんともならぬよ」
コトリ、と壁際へ逆刃刀を置いて。剣心は袴の紐をほどき始めた。
・・・一瞬。
左之助の目が、剣心の指先へ張り付いて動かなくなった。
華奢な身体に張り付いた単衣。きっと、脱いでしまえば襦袢に透けた肌が見える・・・。
思わず、瞼の裏に巡った剣心の肌を想い、左之助は慌てて目をそらした。
「ば・・・馬鹿言え、俺がいるんだぜ、守ってやらァな」
「それは心強いことでござるなぁ。お主がいれば、安心でござるな」
「・・・本気で言ってンのか、剣心」
「嘘をついてどうなる。お主の力、認めているつもりなのでござるが。不服か?」
「・・・不服なわけ、ねェだろが」
小屋の隅々へ目を走らせながら左之助は、己の声がわずかに震えているのがわかった。
網や竿が引っかけてある内部を見渡しながら、左之助は次第に熱を孕んでいく身体に戸惑った。
やべェな・・・
己が肉体が、急激に火照り上がっていくのがわかる。
雨に濡れて冷えているはずなのに、肌を伝う雫を蒸発させてしまうのではないかと思えるくらいに。
血が、沸く。
・・・いつしか。
左之助は、下袴を脱ぐことをやめていた。
「左之? どうした、黙り込んで」
なかなか帯がほどけず四苦八苦している剣心は、いつの間にか背中を向けている左之助に声をかけた。
「帯がほどけぬのか? 水を含むと、なかなかほどけんからなぁ。早く脱がぬと風邪を引くぞ?」
「わ・・・わかってるよ」
ようやくそれだけを答えて、左之助は帯に指を添えた。
が、目の焦点は帯へと定まっていない。
ただ、頭の中がいつになく・・・焼け爛れたように熱かった。
熱くて、熱くて・・・
「左之?」
身動き一つしなくなった左之助を、剣心は少しばかり訝って声をかけた。
「帯がほどけぬのか?」
「・・・あぁ」
やや低い声音に、剣心の勘が違和感を覚える。だが、それ以上の疑問を覚えずに、剣心は続けた。
「ほどいてやろうか」
「・・・あぁ」
左之助が振り向くと、剣心もやっと帯がほどけたのだろう、ちょうど袴を脱いだところだった。軽く絞り、水分を払うと剣心は、左之助のほうを見やった。
「きつく結んでいるのでござるか? まぁ、きつく結んでなくとも、濡れるとなかなかほどけんがな」
小さく笑いながら、剣心は立っている左之助の傍へ寄ると片膝を落とし。下袴の帯へと手をかけた。
「ん・・・確かに、これはキツイ。でも・・・」
多少は、左之助がほどきかけたこともあってだろう、思っていたよりも帯は簡単にほどけた。
「ほどけたぞ、左之」
そう言って。剣心が立ち上がりかけた、その時。
「ついでに脱がしてくれよ」
「え?」
「・・・頼むよ、剣心」
剣心の両肩を掴んで。立ち上がりかけた彼を左之助は押さえ込んだ。
・・・つと。
剣心の胸裏が妖しくざわめいた。
視線を上げると、左之助の瞳がじっと剣心を捉えている。
黒い瞳の中に自分が居るのを認めた時・・・
・・・なんとなく。
この先へ、踏み込んではいけないような気がした。
「甘えるな、左之。これぐらい自分でやれ」
「剣心」
ぐぐ、左之助の手のひらが強くなった。
「いいだろ・・・たまには。脱がせてくれよ」
ゴクリ、と。
彼の細い喉仏が、上下に揺らめいたのを左之助は認めた。
「ば、馬鹿者! 甘えるのもいい加減に・・・!」
「剣心」
黒い瞳を見つめているうちに、剣心の心には波が広がり始めた。
その波は果てなく広がり、やがて大きなゆらぎとなって心を揺さぶり・・・
気づけば。
剣心は黙って、下袴を掴んでいた。
雨でしとどに濡れた下袴は、肌に張り付いて重みを増していた。一気に落としたかったが・・・ずるずると。引きずるようにして落としていった。
剣心のちょうど視線の先には、左之助の下腹部があった。そのことにハッと気付いたときには眼前に、隆々たる高ぶりがさらされていた。
「!」
思わず視線をそらした。
剣心は唇をきゅっと噛みしめ立ち上がる、早まる鼓動を抑えるように。
未だ下帯に包まれているとはいえ、明らかにそれは・・・
「・・・左之」
「なんだ」
「お主・・・」
「ほどいてくれよ・・・」
「え・・・?」
「下帯も、ほどいてくれ」
「!」
剣心はパッと背を向けた。
「そんなことは自分でやれ!」
にわかにうわずる声音をどうすることもできずに。剣心は顔を伏せた。
「ほどいてくれねェのか・・・」
背後から。
浅黒く灼けた両腕が絡んできた。
臀部に、左之助の高ぶりが当たっているのがわかってつい、腰がのけぞる。
「雨に濡れたおめぇを見たら・・・欲しくなっちまってよ」
「左・・・」
「外は大雨だ。しばらくはやまねェだろうよ。だから、な・・・剣心・・・」
「だからって・・・左之!」
きつく、抱きすくめて。左之助は剣心の腰ひもをほどいた。ほどいて、冷たくなった胸乳へ手のひらを張り付かせる。
「!」
息を詰めた剣心に、左之助は黙したまま指先で、彼の華を摘んだ。ふるり、雨粒で濡れた白い肌がにわかに震える。
「・・・やるぜ?」
彼の臀部へグッと己が腰を押しつけて。左之助は耳朶をそっと甘く噛んだ。
「左、之・・・」
胸乳を掴んで離さない左之助の手のひらへ、剣心もまた己が手のひらを重ね合わせて。一つ、はぁと息を吐いた。
「やめろ、と言ったところで・・・お主のことだ、やめはすまい」
「わかってンじゃねェか」
「拙者も、男だ・・・」
背中を左之助へと預けて。剣心はゆるりと彼を見上げた。
「あんなものを見せられて・・・冷静でいられるわけがない・・・」
「オイオイ、あんなものとはご挨拶だな・・・そいつがおめェをよがり啼かすってェのによ・・・」
「よがり啼いた覚えなど・・・!」
「じゃぁ、今からよがり啼かせてやらぁな」
自信たっぷりに、満面の笑みを見たのが剣心の最後だった。
唇は奪われ、流れ込んできた左之助の情念に剣心の理性はあっという間、流された。
「ふ、ぅ・・・!」
左之助が下帯越しに、腰をすりつけてくる。唇から流れ込む左之助に翻弄されて、剣心の身体は急激に力を失い、華奢な身体はくの字に折れ曲がり、浅黒い腕に腰を抱え込まれた。
「左・・・」
「早く、おめェの中に入りてェ・・・」
単衣を、襦袢をまくり上げて左之助は、露わになった臀部をつるりと撫で上げた。板塀へ手をついた剣心は、洩れそうになった声を噛み殺す。
「盛った犬みてェで嫌だけどよ・・・ふと瞬間に、すぐに欲情しちまう。おめェがたまらなく欲しくなる・・・やりたくって、仕方がねェ・・・!」
剣心の下腹部を、左之助は無遠慮にわし掴んだ。下帯越しに掴まれて、剣心はぶるりと身体を震わせた。
「どうやら、俺だけが盛ってるわけじゃねェみてェだな・・・剣心」
「!」
己が下帯をずるりとほどいて、左之助は剣心の臀部へ押し当てる。晒しを巻いた腹部、そして胸乳を剣心の背中へ貼り合わせ・・・唇を。剣心の耳朶へと寄せた。
「おめェはまだ着物を着て、下帯さえもほどいてねェってのに・・・なんだよこの身体ァ。俺を待ってるじゃねェか・・・」
喉の奥で忍び笑う声が、剣心の脳髄を甘く痺れさせる。
「ぁ・・・」
「おめェが言った通り・・・確かに、剣心も男だよな・・・いや、雄だ。やりたくてたまらねェ、発情した雄だ・・・俺と同じ・・・」
「左之・・・!」
「素直に、貪ればいいのさ。恥ずかしがることはねェ・・・ここには俺とおめェ、二人だけだからな・・・」
隙を逃さずに、左之助は再び彼の唇を奪う。
背後から荒々しく口づけながら、左之助の手は剣心の下帯をほどいていく・・・。
「んっ、んん・・・!」
何事かを言いたいらしい剣心を、だが左之助は許さない。執拗に彼の唇を追いかけて重ねながら、その下ではたちどころに、剣心の肌を明かしていった。
肌が空気に触れたかと思えば、左之助の熱い手のひらが這いずり回る。悶え、剣心は身をよじるが左之助の腕はほどけない。せめて唇はと、彼がやっとの思いで左之助の唇を突き放したときには、既に下帯は取り払われ、薄闇の中で全身をさらけ出されていた。
「剣心・・・」
左之助の腰部が、剣心の大腿の合間で揺れていた。その微かな感触に無意識なのか、唇からは喘ぎがこぼれた。
「俺と同じくれェ・・・ここ・・・熱ィじゃねェか・・・」
暴いた高ぶりを指先で弄びながら、左之助はクツクツと笑う。
耳朶の奥をくすぐるその声に、剣心は首を横に振るばかりで言葉にならない。
「全部、見せろ・・・!」
最後の情けとばかりに残っていた、彼の単衣と襦袢を、左之助は容赦なく剥ぎ取った。目の前に真っ白な背中が広がり、赤い髪がべたりと張りついた。
髪を肩から落としてやると、雨粒に濡れるうなじがあらわになった。薄闇に浮かぶ白い肌に、左之助はいきり立った。
「痕・・・つけていいか?」
うなじへ唇を寄せてきた左之助を、剣心は慌てて制する。
「やめ・・・!」
「どうせ、髪を束ねるんだ・・・見えやしねェよ・・・」
うっとりしたように呟くと、唇がきゅぅと雨粒越し、うなじを吸い上げた。
「あ・・・!」
剣心の両膝が崩れそうになる。咄嗟、左之助の両腕が彼の腰を深く抱え込んだ。と、白い大腿の間に左之助の高ぶりが押しつけられ、存在を誇示させてしまう。
「左、之・・・!」
白磁の腰が奇妙に蠢いた。が、そんな動きすらも今の左之助にとっては淫靡なものにしか見えず。
風が激しくなり、ガタガタと鳴る戸板の音に紛れて左之助の喉仏が鳴った。
「剣、心・・・」
「う、ぁ・・・!」
左之助の大腿が、剣心の大腿を大きく割り開いた。ガリガリっと爪が壁を引っ掻いた音を聞きながら、左之助の唇が切なげに言葉を吐いた。
「もう、限界だ・・・」
「左之・・・ぁ・・・!」
身体を、割り開いていくものがある。
灼熱の塊に耐えきれず、剣心の唇はだらしなく、声を洩らす。
「ぁ、あ、あぁ・・・」
頤が跳ね上がった。
両手の指先が、黒く変色した板塀をさらにガリリと掻く。
反りあがっていく背中の筋を見つめながら、左之助は唇の端に笑みをにじませ腰を押し込んで・・・
「す、ぐにでも・・・イっちまいそうだ、ぜ・・・」
ぶるっと身震いして、左之助は満足そうに呟いた。薄暗くてよくわからないが、剣心と一つになっているのが見える。思わず、つつぅとその部分を指でなぞるとぽたり、鼻先から雫が落ちた。
「どうよ、剣心・・・?」
囁くように問いかけてみる。が、剣心からの応答はない。よく見ると、唇を噛みしめて何かを堪えている。眉間に皺を寄せ、目を閉じているその面差しに、左之助の胸は荒々しく咆哮した。
「剣心・・・!」
背後から剣心を貫いたまま、情に駆られて左之助はさらに強く腰を押し出した。
「ふ、ぅぁ・・・!」
剣心の洩れた声音に、左之助の動きは勢いづく。時に浅く、時に深く、乱雑な調子を刻み始めた彼の動きに、剣心の肉体は熱を帯びていく。濡れた肌が乾いていくように、いや、雨の雫かと思っていたそれがいつしか汗に変わって。
冷えていた肉体が、燃えるように熱い。
髪の先端までもが熱に浮かされているような・・・
それは、きっと左之助も感じていること。
腰をきつく捕らえている両手は、まるで炎の如くの熱っぽさで、心をも絡め取る。
無我夢中で、与えられた玩具を手放さない子供のように、左之助は全身を滾らせて剣心の裸体に挑み続ける。
背中で時折、滴り落ちてくるのは彼の汗・・・吐息。もう一つ・・・
「ほら・・・堪えるな、啼けよ・・・」
ぬめりを覚えるような、脳の隅にこびりついて離れなくなる、艶美な声音が降ってくる。
剣心の視界は霞み、噛んでいた唇がほろりとほどけた。
「はっ、ぁ・・・ンっ、あ、あぁ・・・っ」
「いいぜ・・・もっと声、出せよ・・・誰にも聞こえねェ・・・俺しか・・・俺だけが・・・」
「左之、左、之・・・ぁあ、左之・・・あ・・・!」
「腰が止まらねェじゃねぇか・・・こんなに俺を、食い込みやがって・・・!」
・・・薄闇の中で。
肉体の狂乱は続く。
増していく雨の激しさ、荒れ狂う風。
耳朶をうがつほどの音がこだましているが、二人には互いの声音と吐息しか聞こえない。
互いの・・・温もりと。
互いの・・・感触と。
互いの・・・
「剣心、剣心・・・!」
「あっ、あ、さ、左之、左之・・・!」
迸った汗が、最高潮の熱を帯びた。
パタパタと土へ落ちていく汗に混じって、二人の荒い呼吸が折り混ざる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
剣心を強く抱きすくめたまま、左之助は大きく呼吸を繰り返していたが、彼を離すとくるりと振り向かせ、板壁へと押しつけた。
「左之・・・?」
紅潮した頬に潤んだ瞳で。剣心は見下ろしてきた左之助を見上げる。
「まだ・・・やれるよな・・・」
「え・・・?」
返事の有無を聞かずに、左之助は剣心の唇を塞いだ。
瞬間、彼の意図を察した剣心は、力ない腕でなんとか彼を突っぱね、顔を背ける。
「馬鹿者、少し・・・休ませろ・・・」
「嫌だ」
「左之・・・」
「雨もまだ止みそうにねェ。だからよ・・・」
「だからではない、こら・・・!」
「いいだろ。いつもはやりたくても、思い切りやれねェんだからよ・・・それにおめぇ、いつも周りを気にしてるじゃねぇか」
「!」
「・・・いい機会だから・・・思い切り、乱れさせてみてェんだよ」
「左、ン!」
再度塞がれた唇は、再度引き剥がすことはできなかった。
どんなに腕を突っぱねても、背中を引っ掻こうとも、鋼の肉体は微動だにしない。
やがて・・・抗いを見せていた両手も身体も、くたりと弛緩してしまった。
「おい、これぐらいで腰が砕けたのかよ」
ニヤリと笑った唇に、剣心はゾクリと悪寒を走らせた。
「ば・・・かを、言うな・・・誰が、これぐらいで・・・」
「言ったな。その言葉、あとで後悔させてやるぜ」
「左・・・!」
「今だけだ」
そっと・・・剣心の耳朶へ。左之助は最後通告を囁いた。
「雨が止むまでだ。雨が止むまで・・・このまま・・・」
・・・もう、剣心には言うべき言葉はなく。
ただ、そっと。
左之助の肩へと・・・首へと両腕を絡めた。
「剣心・・・」
黒い瞳が、柔らかくたわんだ。瞼を閉じた長い睫を見つめ・・・その唇を、何度目になるのか味わって・・・それから・・・
それから・・・
・・・それから、どれくらい雨は降り続いたのか。
止む頃には既にもう、太陽の姿はなく。
空にあるのは・・・
・・・あったのは・・・
了
背景画像提供:「篝火幻燈」さま
http://ryusyou.fc2web.com/
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m(_ _)m
拝啓
・・・久しぶりの新作が、コレ・・・(^^;)
「意味ナシ・落ちナシ」の、まさしく「やおい」たる王道を突っ切ってしまった・・・。
ある雨の日、土手道を車で走行中、二人で歩く左之助と剣心の姿が見えました
(マジかい!・笑)。そこから急激に妄想が爆発、勢い余って書き上げた・・・
そう、全作から比べてかなりの期間が空いていたというのに、ほぼ一日で
書き上げた今回って・・・。
・・・つくづく、妄想の力は恐ろしいと実感したのでした(笑)。
とはいえ。
ちょっと、不完全燃焼。
それは、剣心が思っていた以上に従順だったから(^^;) もう少しこう、
抗ってくれると思っていたのだけれど・・・ダメだな。いや、いつもの剣心なら、
ある程度の抵抗は見せてくれると思うのだけれど・・・なぁ・・・。
まだまだ、私の中で剣心の「人格構築」がうまくいってないのかもしれないなぁ(笑)。
次回こそは! もっとマシなものを書きたい・・・と思うけれど・・・
ん〜・・・。頑張れ、私(笑)。
あ、ちなみに。
俵一俵は約、60?だそうです〜(笑)。
m(_ _)m
かしこ♪
06.06.25