[   3 ]

 遅れて、剣心の部屋へ入った左之助の目に飛び込んできたのは、明かりの入った行灯と、徳利と湯飲みが二つ。そして、褥であぐらを掻いている剣心の姿だった。
 後ろ手に障子を閉めた左之助に、剣心は笑みを浮かべた。先ほどとは打って変わって、柔らかく優しげな微笑みだった。
 「遅かったな」
 「・・・おぅ」
 遅くもなる。
 最後にあんな話をしたのだから、ついつい気が重くなって動作はのろくなるというものだ。
 湯殿での、思いがけない剣心からの告白・・・それは、かつて妻に迎えた女がいた、ということだ。
 それがなぜ、独りになってしまったのか・・・さすがに訊くことは憚られた。
 しかし、その過去があるからこそ、薫とのことにはいささか慎重になっているのだろうと推測はできた。
 ・・・とは、いえ。
 再度、自分に伴侶を得ることを勧め、なおかつ何かを言いかけてやめてしまった剣心。
 いったい、何を考えているのだろうか。
 そんなことを考えながらようやく、剣心の部屋へと入っていったのだった。
 左之助が剣心の前に腰を落とすと、湯飲みが差し出された。
 「やろう」
 「・・・おぅ」
 左之助が手にした湯飲みに、酒が注がれる。剣心もその流れで己の湯飲みへ酒を注いだ。
 けれど左之助は、酒の水面をじっと見つめたままで口を開こうとしない。
 剣心は口元で苦笑を滲ませた。
 「左之」
 声音の奥の意味に、左之助は一気に湯飲みを空けた。
 無言のままの彼を見ながら・・・剣心も。一気に酒を干した。再び彼の湯飲みへ、己の湯飲みへ酒を注ぎ・・・手にすると。
 「・・・左之」
 水面に映る己を見つめながら、剣心は口を開いた。
 「これだけは、確実に言える」
 目を上げると、左之助が黙って剣心を見つめていた。真摯な黒い瞳を見据えて、剣心は続ける。
 「背中を預けられるのは、この先も左之助だけだ」
 「!」
 剣心はつと、湯飲みを傍らへ置いた。
 「左之助は、拙者のすべてを預け、肩を並べてともに戦っていくことのできる者。拙者にとっては、そういう存在・・・」
 「剣心・・・」
 ここで大きく、剣心は息を吐き出した。小さな両肩が上下に揺らぐ。
 「しかし・・・それは所詮、キレイ事、言い訳に過ぎぬ・・・」
 赤毛がハラリとこぼれて。左頬の十字傷に軽く触れた。
 「・・・薫殿の、迎えてくれる暖かさと居心地の良さに甘えて。反面、左之の腕を振りほどけないでいる、むしろ戦いだろうとどんな時も、身も心もすべて預けられることに、快感すら・・・」
 ぺたん。己が手のひらを額に当てて・・・剣心は自嘲した。
 「ふふ・・・薫殿の想いを知っていながら受け止められず・・・かつての過ちを恐れて、何もできない、進むことも退くことも。そんな臆病な自分だというのに、ここにいる。おまけに左之助にも甘えてすがるなどと、醜く、狡い・・・!」
 剣心は顔を伏せた。膝の上に置かれたその手が、きつく寝巻を握りしめて震えていた。
 吐露した思いがけぬ剣心の本音に、左之助は面食らってしまった。けれど、その胸中は熱いものがわきあがってきて、彼の全身は夥しい熱を宿した。
 左之助は酒をあおるとタンッ、と湯飲みを置き、腕を伸ばして剣心の手を掴んだ。
 「醜くて狡いと言うなら、俺だって同類だ」
 「左之・・・」
 左之助は彼の手を強く引いた。剣心の身体はふわりと浮いて、左之助の胸の中へ落ちていく。
 左之助のしどけなく開かれた胸元へ、剣心の頬が寄せられた。
 「おめェが嫁を貰ったことがあると知っても、それでも俺ァ、おめェのすべてが欲しい。心も身体も、全部だ」
 「左之・・・」
 「かつての嫁が、おめェにとってどんな存在だったのか・・・どうして今、独りなのかなんて聞かねェよ。ただ、そいつ絡みで嬢ちゃんとのことを深く考えこんでンのはよく、わかった」
 左之助は、剣心の肩を抱きながらそう言った。彼の言葉に、剣心は呟くように言う。
 「拙者は・・・かつての妻のような目に、薫殿を遭わせたくないだけ・・・だから、資格がないのでござるよ・・・」
 湯殿でも呟いた、「資格」という言葉。つと、左之助が剣心を見遣ると、彼は瞳を閉じていた。それがまるで、彼の心の扉のように見えて・・・左之助には、それ以上のことを聞くことができなかった。
 剣心の小柄な身体を抱きしめながら、左之助は大事な物をしまいこむように腕に力を込めた。彼の想いが伝わったのか、剣心もまた、胸乳へと頬を擦り寄せる。
 互いの微かな呼吸を感じながら・・・左之助はふと、言った。
 「・・・剣心」
 「・・・ん」
 「おめェ・・・嬢ちゃんに惚れてンのか」
 左之助の言葉に、剣心はゆっくりと面差しを上げた。
 「惚れているなら、お主に身体を許したりはせぬよ」
 「剣心・・・」
 「拙者はまだ・・・そこまでの覚悟もなければ、資格もない・・・だから、醜く、狡いのでござる・・・」
 か細い声でそう言った剣心を、左之助は改めて抱きすくめた。ぎゅぅ・・・と力を込めて抱きすくめて、さらに剣心の温もりを感じ取ろうとする。
 「だったら・・・俺とのことは、それなりの覚悟を決めてるってことか・・・?」
 「・・・それは・・・」
 剣心はゆるく、微笑を浮かべた。
 「それは、お主の熱に負けた・・・それだけでござるよ」
 「何だよ、そりゃぁ・・・まるで一方的に、俺が惚れて口説き倒したみてェじゃねェか」
 「あぁ。だから拙者は、狡いのでござる」
 「この野郎」
 苦笑して、左之助は再び彼を力一杯抱きすくめた。ひとしきり、温もりを感じたあと・・・
 「まぁ、いいさ。俺にすがってりゃいい。最後の、ギリギリのところまで、な」
 「左之・・・」
 左之助は剣心の頭をグシャグシャっと撫でると。
 「何もかも承知の上で・・・こんなことをしている俺達は、最低、だな・・・」
 そう言って、寂しげに笑った。
 「・・・どんな綺麗なお題目を並べても、それが真実・・・だな」
 剣心もまた、いつだったか己の言った台詞であることに気づいて、薄く笑った。
 「全くだ」
 どちらともなく、クスクスと笑い始めた。どこか寂しく、切ない・・・小さな笑い声は、そんな色を浮かべていた。
 左之助は、剣心のやや濡れた赤毛に指を梳かせた。束ねられていない赤毛はしなやかに身をしならせて、指と指の間を通り抜けていく。
 湿ったそれが・・・なぜだか、濡れるのか、乾くのか、どちらかにしろともどかしく感じて・・・いや、それは自分達の関係かと、左之助は思ってしまう。
 彼は、右手に取った赤毛に唇を寄せ・・・それまで強く抱いていた、剣心の腰からふと力をゆるませて・・・左手で、剣心の帯を解いた。
 しゅる・・・
 微かな衣擦れの音に、左之助の胸へ顔を伏せていた剣心が、びくりと身体を震わせた。
 彼の小さな反応を、左之助は黙ったまま見つめつつ。取り払った帯を落とし、剣心のはだけてしまった袷をさらに左右へ広げて・・・温もりの宿る胸乳へ手を伸ばした。
 「・・・ッ」
 剣心が息を詰めた。おもむろに触れられた胸の華に、意識が否応なく集中していく・・・
 左之助の指先は優しく、こするように転がして、撫でていく。時に大きな手のひらが覆い尽くしては、指先が微細な動きを見せる。
 息を詰め、呼吸を殺し続けていた剣心はやがて、その喉を震わせ始めた。伏せた面差しは唇を噛み、眉根を寄せて。左之助の袷を両手で握りしめて深いしわを刻み込ませて・・・その、
 やや細く、しかしどこか骨太さを感じさせる指がわなないて・・・
 剣心の反応は、漆黒の双眸が刻銘に捉え続けている。
 と、
 「!」
 きゅっと胸の華を摘まれて、剣心が喉仏を仰がせた。
 「ン・・・!」
 すかさず左之助、唇で彼の花びらを塞いだ。己が口を開き、剣心の唇を割り開いていく・・・
 彼の圧倒的な熱に眩暈を覚えながら、剣心もその口づけに応えるように強く唇を押しつけて・・・
 「ん・・・ふぅ・・・」
 洩れる吐息が絡み合い・・・室内へと消えていく・・・
 左之助は剣心の胸乳から手を離すと、両手で彼の頭部を捉えた。さらに自らへと押しつけて、左之助は飽くことなく唇を求めていく。
 剣心は、それまで握りしめていた彼の袷から手を離すと。そのまま手のひらを両肩へ滑らせ。左之助の首筋を捉えると両腕を絡め・・・身をすがらせ、唇を押しつけた。
 互いの呼吸が荒く、激しさを増していく・・・
 「・・・んぅ・・・!」
 息苦しさに堪えかねて、剣心が少し顔を振ろうとした。が、左之助が許さない、剣心を捕らえたまま押し倒した。
 褥にあった枕は弾かれて転がり、男二つの身体が占拠する。
 左之助は剣心の頭部を捕らえて離さぬまま、剣心も左之助にすがりついたまま。
 「・・・ふ、はぁ・・・!」
 わずかに、左之助が唇を離した隙に。剣心は大きく息継ぎをした。二人を繋いだ透明な糸に、左之助は思わず喉を鳴らす。
 「剣・・・」
 名を呼ぶ暇すら、惜しかった。左之助は再び唇を合わせると猛然と、剣心の身体を嬲り始めた。
 すっかり開かれてしまった懐へ両手を差し込んで、滑らかでありながら強靱さを思わせる肌を、撫でつくし。刻まれた古傷には指先でなぞって、彼のかつてに思いを馳せて。大腿の引き締まった筋肉を撫で上げては、跳躍して空を駆ける時の剣心を思い。
 左之助は、今さらながらにまざまざまと、己はこの男に心酔しきっていることを思い知らされる。
 「はぁ、はぁ・・・」
 唇を離すと、左之助もまた荒い息づかいをしてしまう。落ち着いた呼吸などできない、今は剣心が欲しくてたまらなかった。肉体の全てが、目の前の男を求めている。
 自身でも抗えないほどの獰猛な情欲が、左之助を支配していた。
 乱れた呼吸を繰り返す剣心は、ようやく唇を離してくれたことにホッと安堵しつつも、これからもたらされるであろう快感の波を思い、身を焦がした。
 左之助を直視できなくてそっぽを向いてしまったが、瞳が彼を盗み見ていた。開ききっていない蒼い瞳が・・・艶めいた煌めきを宿して。
 「左、之・・・」
 掠れた声音が彼を呼ぶ。
 左之助はその声音だけで胸の奥を猛々しく燃え上がらせた。白い首筋へ唇を開く。
 「ぁ・・・!」
 髪の生え際から首筋へ・・・。左之助の生温い息づかいと舌先のぬめりが、剣心の意識をさらおうとする。
 剣心は声にならない喘ぎをこぼしながら、左之助の唇を、舌を、指先を、肌を、肉体を、全身で受け止め、感じ取っていく。
 いつしか自ら脚を開いて、左之助の腰部へと絡ませて。継いで、彼の下腹部の高ぶりへと手のひらを寄せていた。
 「ふ・・・っ」
 下帯の上から触れられて、左之助の動きが一瞬、止まった。そろりと撫でられ、左之助は切なげな吐息を洩らす。
 「剣、し・・・」
 上体をわずかに押し上げ、左之助は剣心を見下ろした。
 熱っぽい視線に気づいて、剣心はそれまで横を向いていた面差しを戻し、左之助を見上げた。
 「左、之・・・」
 細い指が、そろりそろり、慣れぬ手つきで左之助の高ぶりに触れてくる。左之助は肌を震わせながら、ニヤッと笑って。彼もまた、剣心の高ぶりへと手を忍ばせた・・・下帯を突き破らんとしている、彼の高ぶりへと。
 触れられた途端、剣心はびくりと身体を弾ませた。
 「あ、ぅ・・・!」
 「熱ィ、な・・・」
 うっとりと左之助は囁くと。手慣れた手つきで下帯を解き・・・
 「う・・・!」
 外界にさらされた剣心の高ぶりは、左之助の手のひらへ収められ。優しく、淫靡に指先に絡め取られていく・・・
 「はぁ、ぁ、左・・・」
 片膝を立てて、何とかその快楽の波から逃れようとする剣心・・・いや、逃れようとしながらも味わっている・・・
 細腰が、左之助の下で艶めかしく蠢いている。
 左之助は満足そうに笑みを浮かべると、自らも下帯を解いて。己が高ぶりと剣心の高ぶりを押しつけた。
 「!」
 剣心の両眼が見開かれた。左之助はそのまま剣心をきつく抱きしめると、彼の耳朶へと囁いた。
 「どっちのぬめりだ・・・すげェぬるぬる、だな」
 「左・・・っ」
 左之助の腰部が、淫猥な動きを見せ始める。単に、互いの高ぶりを擦り合わせているだけなのに・・・
 行灯の淡い明かりの中、浮かび上がった彼の腰部。上下に、ゆるやかに、脈動している・・・その光景を見ているうちに、剣心は既に貫かれているかのような錯覚を覚えてしまって思わず。
 「あ、ぁ・・・っ」
 「待て、剣・・・!」
 剣心の微細な震えに左之助の身体も反応を示してしまった。己の高ぶりは敏感に感じ取ってしまって思わず、剣心と同様の結果に・・・
 「剣、心・・・」
 左之助が腰を離してみると、互いの腹部には白濁とした体液が飛散していた。引き締まった腹筋の、筋と筋の間にまで入り込んでいる様に、左之助の心は奪われた。
 「・・・そんなによかったか?」
 「・・・答える必要は、ない・・・」
 剣心は頬を赤らめて顔を背けた。
 「素直じゃねェな。俺ァ、よかったぜ」
 クスクスと笑いを洩らしながら、左之助は腹部を濡らした飛沫を見つめた。
 白濁としたそれは、剣心と左之助のもの・・・左之助は剣心の腹部へと、手のひらを当てた。
 「左・・・?」
 顔を背けていた剣心だったが、何かをしている左之助が気になって顔を向けてみると。
 左之助は、剣心の腹部に飛散したそれに手のひらを重ね、右に左にと撫でていた。剣心の透き通った白磁の肌へ、擦り込むように・・・
 「左之・・・?」
 「・・・俺と、おめェのモンが混ざり合ってる・・・」
 「!」
 陶然と呟いて、汚れた手のひらを見つめる左之助を、剣心は直視できない。再び顔を背けた剣心など目もくれず、左之助は呟く。
 「こんなにいっぱい出てンのに、なんにもならねェ・・・俺か、剣心か、どっちかが女だったら、たちまち孕んでたろうによ・・・」
 「左・・・!」
 「女が羨ましいぜ。惚れた野郎のモノを貰って、証を孕ませられるんだからよ・・・男同士ってなァ、つくづく不毛だな・・・なんにもできやしねェ・・・」
 手のひらに絡んだものを、左之助はぺろりと舐めた。
 「俺達ァ・・・肌を貪り合うことに意味なんざ、あるのか・・・?」
 「左之!」
 剣心は思わず左之助を呼んだ。
 左之助は瞳を潤ませた面差しで剣心を見下ろした。
 「剣心・・・」
 剣心は少し上体を起こすと彼の身体を抱きしめた。その抱擁に応えるように、左之助も彼を抱きしめる。互いに視線を交わすと、どちらからともなく唇を重ねた。
 左之助は剣心の唇を貪りながら、彼の身体を褥へ縫い止めるとゆっくり、開いていく・・・
 剣心はその気配を察して、唇を離すと顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。
 「剣心・・・俺を、見ろよ・・・」
 低い声が、剣心の胸に響く。
 「な・・・ぜ・・・」
 胸の鼓動が痛いほどに激しい。剣心は精一杯の声音でそう、尋ねた。
 「おめェを見ながら・・・イきてェ・・・」
 「!」
 カッと血が上ったが、それでも剣心は彼が見られない。左之助は呼吸を乱しながら潤んだ瞳で剣心を見つめ・・・手のひらを、彼の臀部の奥へと差し込んでいく・・・
 「あ、あぁ・・・」
 自らの内側へ入り込んでくる、左之助の指先に。剣心はたまらず褥を握りしめた。
 「ほら・・・俺を見ろ。おめェん中へ入れて、俺もイく・・・イきてェ・・・」
 「・・・左、之・・・」
 胸の激しい高鳴りに押されて、剣心の声音が掠れる。左之助も声を掠れさせながらも言葉をかけていく。
 「おめェん中、熱ィ・・・あぁ・・・も・・・!」
 臀部から手のひらを引き出すなり左之助、己が腰部を剣心の内側へと一気に押し込んだ。
 「く、ぁ・・・!」
 身体の中心を貫かれて、剣心は目を閉じてしまった。が、開始された左之助の律動に彼の肢体はすぐに反応を示し始めた。
 「あ、あ、はぁ・・・ン!」
 嬌声をこぼした唇を、左之助の唇が塞いで。そのまま彼の腰部は律動を速めていく・・・
 剣心は、呼吸の不自由さに意識を朦朧とさせながらもしかし、その両足はしっかり、左之助の腰へと絡んでいる、吸い付いて離れない。
 左之助の身体の熱さ、瞳の艶・・・唇が唱える「剣心」という言葉・・・
 剣心はそれらを全身で感じ取りながら、意識のどこかで、今日見たあの、土手の夕陽を思い出していた。

 ・・・明日の空は、どんな空なのか・・・
 明日、は・・・

 「はぁ、剣心、剣心、あ、ァ・・・ッ」
 抱きすくめたまま、腰を深く突き込んでくる左之助の熾烈さに剣心の意識は、守っていた最後の薄い理性は、砕かれた。
 何度目の口づけか、左之助が唇を離したとき、剣心はだらしなく唾液を流した。自らも淫らに腰を揺さぶりながら艶を吐く。
 「あぁ、もっと・・・もっと・・・!」
 「剣・・・!」
 「左之、左・・・之・・・! あ、あぁ、ぁ・・・も・・・と・・・!」
 汗が迸る、滴り落ちる。
 左之助の鼻筋から落ちていった汗の玉は、剣心の左頬へ落ちて十字傷を伝う・・・
 室内に刻まれる黒い影がゆらゆらと漂い、濃厚になっていく二人の息づかいを静かに見守って・・・
 その時は、くる。
 「剣、心、け・・・ン・・・!」
 「は、あぁぁ・・・!」
 二つの腰部が同時にわなないた。
 身も心も真っ白に行き果てて・・・
 ・・・障子に、微動だにしなくなった二人の影が刻まれる。
 ジジ・・・と行灯の、油が燃える微かな匂い・・・
 ・・・ゆら。
 左之助の影が揺らめいた時。
 「・・・ふ、はぁ・・・っ」
 剣心の呼吸が、止まった時に波を打たせた。両肩で呼吸を繰り返しながら、ぐったりと身体を弛緩させる。
 「・・・は、はっ、はぁッ」
 左之助もまた、がっくりと弛緩してそのまま崩れ込んだ。剣心の上へ身体を落として、彼と同様、両肩で呼吸を繰り返す。
 刀を握っているときでも、喧嘩をしているときでも、決して呼吸を乱さない二人。
 それが、疲労困憊したかのような荒い呼吸・・・
 「剣心・・・」
 左之助が軽く口づけてきたことで、剣心の失われていた理性がわずかに、よみがえる。
 「左、之・・・?」
 「・・・足りねェ」
 「ま、待て・・・少し、休ませ・・・」
 「待てねェ・・・」
 息も絶え絶えに、左之助は彼の肌をまさぐってくる。剣心は、気怠い余韻を再び燃え上がらせていく左之助の手管に声を上げた。
 「馬鹿者、身がもたな・・・」
 「聞けねェよ、剣心」
 左之助の余裕のなさに、剣心もまた感化されていく。反応を示し始めていく自らの肉体を苦々しく思いながらも、強く求めてくる左之助を拒めない。
 いや・・・強く求めてくるその裏側の、彼の気持ちを思えば・・・
 拒めない。
 むしろ・・・剣心もまた、同じ気持ちであったから。
 体力は、彼の要望を受け止めるには不十分だけれども。
 でも・・・左之助と同様に若かったら。
 きっと自分も、同じように・・・
 いや、「きっと」ではなく。
 「必ず同じように」・・・。
 剣心は小さく息を吐くと・・・左之助を抱きすくめた。
 「構わぬ・・・左之。今宵は、拙者もお主が欲しくてたまらぬ・・・」
 「剣心・・・」
 「どうにでもしろ・・・朝まで、寝かせるな・・・」
 「剣心・・・っ」
 深く口づけられて、剣心は応える。
 応えながら、理性を保つことをやめた。
 今は・・・今は、左之助にすがっていたい、ただ、ただ・・・
 左之助もまた、抑えられぬ欲情に抗う術を知らない。いや、今は抗いたくなかった。
 だから・・・突き動かされるように剣心を求め続ける・・・

 夜が明けて・・・
 昇る朝陽を。
 いったいどんな気持ちで見るのだろう・・・
 闇から青く染まっていくその空を、
 どんな気持ちで仰ぎ見るのだろう・・・

 ・・・明日が、来なければいい。

 夜の闇は、二人を覆い隠す。
 その心を誰も、覗けないように。
 わかり合っていればいいのは、彼らだけだから。
 互いに理解し合っていれば、それで十分だから・・・
 夜の闇は、二人を覆い隠す。
 その心を誰も、覗けないように・・・




     了

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拝啓

 前作から・・・気がつけば一年が経過・・・すっかりご無沙汰をしてしまいました、申し訳ないです(^^;)
 しかもなんだい、このネタは(笑)! 嫁を取れだのなんだの・・・
 おかげで、私自身がかなり悩んでしまい、なかなか筆が進まなくて困ってしまいました(笑)
 ただ、ゆくゆくは書くであろうと、自身が予想していたネタではありました。
 今回は剣心の心がはっきりしなくて、代わりに懐の大きなところを見せた左之助(笑)。
 左之助がちょっと大人すぎてどうよ!?とは思いましたが・・・私の力のなさです、
 彼にはもう少し、十代なりのもどかしさとかあがきとか、分からず屋なところを出したかったんですが・・・
 まぁ、いっか(^▽^;) 実際こういう大人な左之助、私は大好き・・・(コラコラ・笑)
 あぁ・・・やはり力不足を感じてしまったことは言うまでもなく・・・。
 思うように表現できないって、辛いですね〜(^^;)
 でも久しぶりに書けてとても楽しかったです♪(特に濡れ場・・・オイオイ!・笑)

 m(_ _)m

かしこ♪

08.06.26